アメリカの株式指標S&P500が過去最高値を記録しましたが、リセッション(景気後退)を警戒する情報も増えています。
前回はリーマンショックを含む景気後退が起きグレート・リセッションなんて呼ばれました。景気には波があるのでリセッションは避けられないようですが、個人投資家はどう備えておくべきか、過去や現在の情報を元に考えてみます。
過去の暴落の記録や、リセッションに関係しそうな情報を片っ端から集めたので長いです。
もしリセッション入りすると株価は最低30%以上は下がる
リーマンショックを経験していない投資家にとっては次のリセッションが初体験になると思いますが、リセッションが現実となれば米国の株式は少なくとも30%は下落するという見方が出ています。
では前回のリーマンショックでどれくらい暴落したのかを調べると、前回の最高値からダウ平均は約53.78%、日経平均も約61.20%も下落したようです。
天井から底打ちするまでの期間は約1年半、株に投資していた資産評価額はその短期間で半分以上減ってしまう計算となります。含み損の大きさに耐えられるか不安ですね。
リーマンショック前後に起きた主要な出来事と株価、債権(米国債10年利回り)、金、ドル円の価格は参考までに下記表にまとめました。価格変動はその商品の最高値もしくは最安値をベースに算出しています。
年月日 | イベント | ダウ平均 | 日経平均 | 国債利回り | 金 | ドル円 |
---|---|---|---|---|---|---|
2007年7月9日 | 日経平均の高値更新 | 13649.96 | 18261.98 | 5.134 | 657 | 123.36 |
2007年10月9日 | ダウ平均史上最高値(当時) | 14164.53 | 17159.9 | 4.654 | 728.8 | 117.12 |
2008年9月12日 | リーマン破綻の直前 | 11421.99 (-19.36%) |
12214.76 (-33.11%) |
3.722 | 757.5 | 107.91 |
2008年9月15日 | リーマン破綻 | 10917.5 (-22.92%) |
日本は祝日 | 3.39 | 779.254 | 104.5 |
2008年9月16日 | AIG救済策発表 | 11059.01 (-21.92%) |
11609.72 (-36.43%) |
3.43 | 779.5 | 105.75 |
2008年9月17日 | 米SEC 空売り規制を強化 | 10609.66 (-25.1%) |
11749.79 (-35.66%) |
3.421 | 813 | 104.12 |
2008年9月29日 | 緊急経済安定化法の否決 ダウ平均777ドル暴落 |
10365.45 (-26.82%) |
11743.61 (-35.69%) |
3.574 | 905 | 104.08 |
2008年9月30日 | ダウ平均777ドル暴落の翌日 | 10850.66 (-23.4%) |
11259.86 (-38.34%) |
3.829 | 884.5 | 106.02 |
2009年3月9日 | ダウ平均大底 | 6547.04 (-53.78%) |
7086.02 (-61.2%) |
3.305 (+35.62%) |
934.75 (+42.27%) |
98.79 (+19.91%) |
天井から底までは最大で50%以上も暴落した株価ですが、下落と反発を繰り返しながらズルズルと落ちていったようです。反対に国債、金の安全資産は値上がりし円も20%ほど値上がりしています。
途中、リーマン・ブラザーズの救済案も出たりで株価は乱高下したようですが当時のイベントは覚えておくと良いと思います。
金融危機に分散投資は効果がない?
最近流行りのロボアドバイザーが選んでくれる金融商品の選定は現代ポートフォリオ理論(モダンポートフォリオ理論)と呼ばれる、リスクは極力小さくしリターンは最大化するという理論が採用されています。
よくノーベル賞を受賞した投資理論と紹介されている事が多いのですが、自分的な理解としてはリスクを減らすには資産は分散する必要がある、同じ資産でも分散の割合が少し違うだけでリターンとリスクが異なるので、同じ資産を選ぶならリターンは大きく、リスクは小さくなる組み合わせがいいよねっていう理想を数式にした理論という認識です。
例えば株と債権をどの割合で持つかを考えた時に、この現代ポートフォリオ理論を使えば最もリスクが低くて最もリターンの高い組み合わせを教えてくれるという感じでしょうか。
これは株式での分散にも使える理論で、S&P500やTOPIXなどのインデックス投資は現代ポートフォリオ理論に近いとされています。集中投資に比べインデックス投資はリターンは小さくなりますが、そのぶんリスクも下がるので初心者にも向いているとされていて、つみたてNISAやiDeCoの影響もあって人気の投資法ですよね。
しかし、リーマンショック級の金融危機が起きるとこの分散効果は役に立たなくなる可能性があるそうです。
インデックス投資の値動きが安定しやすいのは値動きの違う銘柄が複数組み合わせてあるからというのがありますが、リーマンショック級の出来事だと総悲観となってしまい何でもかんでも投げ売りされるので、これまでの相関関係が崩れてしまうというのがあるみたいです。
先程の表を見てみると、ダウ平均が777ドルの暴落を記録した翌日には株、債権、金、円の価格が全て下がっているのでこの事を指しているのだと思います。
正に有事のドル買いだったと思いますが、こうなると分散投資だからと言って安心はできないですね。
リセッションに関係しそうなネガティブ情報
過去のおさらいはこれくらいにして、リセッションに関連しそうな現在のネガティブ情報を集めてみます。
リセッションの検索トレンド
まずは世間はどれくらいリセッションを警戒しているかを知りたいので、Googleトレンドを使い検索動向を調べてみます。
日本(リセッションで検索)
出典:GoogleTrends
米国(recessionで検索)
出典:GoogleTrends
結果からわかる通り2019年8月にリセッションに関する情報を調べた人が急増したようです。
8月の出来事と言えば経済指標の悪化や米中貿易摩擦への不安と、時期的にも株価は冴えずそういう懸念から検索数が急増したのではないかと思われます。
米中貿易摩擦の長期化
リセッションの懸念材料と言えば米中貿易摩擦は外せません。2018年から始まった幅広い商品への追加関税ですが双方引かず報復関税と休戦を繰り返しています。
10月時点では米中通商協議が再開したのを好感して株価がまた上昇していますが、もし決裂となればまた相場が荒れそうです。
米中貿易摩擦の影響ですが既に企業の業績に出始めていてるようで、キャノンはこれを理由に業績予想を下方修正したと発表しています。
米中貿易摩擦で日本は板挟みになっている部分もあるので、今後益々影響が出てきそうな感じがします。
2018年末の暴落はファーウェイ副会長の逮捕が米中貿易摩擦を悪化させる恐れや、中国や欧州の経済指標が良くなかったのが理由でしたが、10月現在は過熱感も出てきているので昨年の再来にならない事を祈ります。
香港デモの長期化
香港では6月に罪容疑者の中国本土への引き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正案に反対するデモが発生していてこれが現在も続いています。
最初は雨傘運動と呼ばれる非暴力的な抗議デモだったようですがこれが次第に激化しています。
どう収拾するのかがわからなくなってきましたが、下記記事によるとこの影響で香港はリセッション入りしたと報道されています。
アメリカ人の家計債務の膨張
ここ数年言われている事ですがアメリカ人の債務残高が増え続けているそうです。
割合的には住宅ローンが大きいですが、自動車ローン、クレジットカードローン、学生ローンが急増しているとの事。
アメリカ人は貯蓄がなくてもクレジットカードなどで借金をして消費する傾向が強いらしく、特にキャッシュレス先進国なので日本人以上に気軽にカードを使っているみたいです。
今は日本でもキャッシュレス決済が普及し始めていますが、決済手数料が高く経営を圧迫しかねないと問題になっています。これは日本人はクレジットカードを使っても一括払いが多くカード会社は儲からないのでその分を店や企業に負担させているのですが、アメリカではリボ払いが当たり前みたいで店や企業が負担する決済手数料は日本に比べると安いそうです。
また、アメリカではこんなジョークもあるそうです。
金も無いのに、必要の無い物をわざわざ買いに行く日、それがブラックフライデーだ。
借金なんて気にせず消費って凄いですね。ちょっと考えられない思考です。しかし、米国のGDPの約7割は個人消費から成り立っているので、こういう消費したがりな国民性がアメリカを、そして世界を潤わせているのが実情なのかもしれません。
ただリボ払いって悪魔が考えた仕組みって言われるように元本が中々返済されない怖い仕組みです。これを平気で使ってしまうアメリカ人って本当に日本人より金融リテラシーが高いの?って思ってしまいますが、これには教育水準や金融リテラシーが高くないとされるサブプライム層が影響している模様。
アメリカも日本と同様に学歴社会化が加速しているようなのですが、その学費は日本以上との事で学生ローンの問題も浮上しています。
資料を読んだ内容を下記に要約します。
- 米国の大学費用は他国に例を見ないほど高額になっている
- 将来、高収入の職に就くことを期待して借金をしてでも大学に入る傾向が強い
- 大学卒業生の約70%が卒業時に学生ローンを抱えている
- しかし、卒業しても高収入を得られる職業に就けない学生も多い
- 米国の学生ローン制度は破産しても免責されない(必ず返済しないといけない)
- 学生ローンは住宅ローンの15%程度の市場規模なので金融危機につながる可能性は低い
日本もこれと似た事が言えると思いますがアメリカはもっと深刻そうです。
CLOの価格下落リスク
CLOとはローン担保証券の事で信用力が低い企業の債権をまとめて証券化した金融商品です。サブプライムローンも同じ仕組みで証券化され問題の引き金となりましたが、こちらは無傷で金融危機をくぐり抜けたそうです。
日本の金融機関はアメリカに次ぐ保有高だそうで、金融緩和によって長期金利がマイナスになり運用環境が厳しいため、リスクが高いが利回りも高いCLOを買いまくっているとのこと。
これを聞くとサブプライムローンの二の舞にならないのかと思うかもしれませんが、市場関係者は「企業情報が公開されていて、業種も分散しているから比較的安全。サブプライムローンとは違う」と言っています。本当でしょうか?
また保有している商品のほぼ全てが格付けの高い「AAA」だそうですが、サブプライムローンの証券も格付けが「AAA」でした。当時は格付け機関のムーディーズとS&Pが投資銀行の言いなりだったという話(映画マネーショートでも出ていた気がする)ですが、信用力が低いローンでも集めたらAAA?というのは不思議です。
この情報は2019年10月24日に下記見出しでネット上に公開されています。
日銀は国内の金融機関(特に農林中央金庫)が沢山CLO買っているので本当に大丈夫か?と心配しているとの事みたいですが、ここに火が付けば日本の金融機関も火傷では済まされなくなりそうです。
日本の銀行にはペイオフの制度がありますので、1000万円を越える預金は一箇所に預けず分散しておくのが吉だと思います。
逆イールドカーブの発生
2019年3月に米国債市場で短期利回り(2年)が長期利回り(10年)よりも上がる逆イールドカーブが発生し市場が騒然となりました。
逆イールドカーブは2007年以来約12年ぶりとの事で、景気後退を暗示するサインとして恐れられていて、このサインが出るとこのような事が起きるとされています。
- 1年~2年でリセッション入りする可能性
- リセッション前に逆イールドカーブは解消される事が多い
これに当てはめると2020年3月~2021年3月位にはリセッション入りする可能性があるという事ですね。
そしてちょっと怖いのが米国債利の30年物が初めて利回り2%を下回ったという出来事が起きた事です。世界経済減速の兆候を捉えた投資家が資金を退避させているという事だと思います。
しかし、この記事を書いている2019年10月28日現在は逆イールドカーブは解消されています。リセッション前に解消されるという経験則に当てはまっているのがまた怖いですが、逆イールドカーブの出現もリセッション入りのシグナルとなっているようです。
ブレクジット(イギリスのEU離脱)
EUを離脱するする詐欺状態になっているブレクジット問題も欧州リセッションの懸念事項です。
二転三転を何度繰り返すのかがわかりませんが、今の所はイギリスもEUの一部として機能しています。
ブレクジット問題は若年層も選挙投票へ行かないといけない大切さを教えてくれましたが、2016年に離脱が決まってまだ合意に至ってないところを見るとまだ先は長そうです。
著名投資家の動向
次は著名投資家の動向を調べられる範囲でまとめてみました。
ウォーレン・バフェット
- 銀行株を買い増し
- アマゾン株を買い増し
- 現金比率は2016年以降上昇している
世界三大投資家の中で最も情報量が多いのはウォーレン・バフェット氏じゃないかと思うのですが、バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの現金比率が上昇している事は度々注目されています。
今は買うものが無いと発言もしていて次の機会を待っているのではと言われています。
ジム・ロジャーズ
- 北朝鮮へ投資したい
- 北朝鮮関連で大韓航空の株を買った
- これからは農業
- 日本株は暴落する
北朝鮮は特に観光産業に目を付けているそうで韓国の大韓航空の株を買ったと公言しています。その記事が2019年の1月でしたのでまだ持っていると高値掴みしてしまった事になり、現在は含み損を抱えている最中でしょうか。しかし、自伝本の中で「いつもタイミングが早い」と書いているので今後どうなるかに注目です。
北朝鮮や新興国への投資、農業推奨、日本株の暴落はずっと言っていてブレないですが、発言が二転三転し矛盾しているという指摘もありますし、最近はセミナー屋さん化しているようなので自分はあまり参考にしていません。
似鳥昭雄(ニトリの会長)
ニトリの会長である似鳥昭雄さんは投資家というより経営者ですが、その予想がアナリストより良く当たると評判の方です。
2018年の年末にした予想をまとめたのが下記です。
- 1ドル=100円~110円
- 年末の日経平均は2万円前後
- 米住宅関連の指標は鈍化している
- 最近の原油安は世界経済が不況になるサイン
- 本格的な景気後退は20年以降で21~22年が底とみる
- 前回の東京五輪は終わる前から不況になった
- 過去にあったことは必ず起こるのが経験則だ
- 不動産も下がるだろう
やはりリセッション入りは意識されているようで、もし不況に入った時には思いっきり投資をしたいと答えていました。自分もその時には勇気を出して投資を出来るように見習いたいです。
もし株価の暴落が起こったら
情報をまとめていくと懸念材料も豊富にあるし、著名投資家もリセッションに備えているのでなんだかネガティブな気分になってしまいますね。
リセッション入りが現実化し株価が30%、もしくはリーマンショック並の50%まで下がる可能性を想定すると、以下の準備はしておきたいと考えています。
ポジションのリスク管理
現金比率が低いのでこの株高の機会にポジションを減らし、許容範囲までリスクを縮小させておこうと計画しています。
暴落は買い増しのチャンスではあるのですが肝心の現金が無いと買えないので、これは買うの間違ったかなという銘柄の売却や損出しで現金を確保しておきたいです。
とりあえず買い増しする気が無い銘柄は処分ですかね。
底狙いはしない
底狙いにこだわると落ちるナイフを掴む事になるので注意しようと思います。
リーマンショックの体験談を見ているともう底だろうと思ってもまだ下がるという状況だったらしく、資金切れを起こし本当の底では買えなかったとありました。
どのみち底では買えないと思うので落ちきって反発を確認してからでも遅くないのかもしれません。
つみたてNISAとiDeCoの積立投資は止めない
つみたてNISAとiDeCoは暴落しようがこのまま積立投資を続けます。
どちらも新規投入できる資金が制限されているのと、つみたてNISAでは消費した非課税枠は返ってこない制度なので継続するしかありません。
つみたてNISAは制度が開始したばかり、iDeCoは老後2000万円問題で口座開設数が伸びているそうなので暴落したら損切りする人も多そうです。
ジム・ロジャーズ氏は現在のETFブームは次のリセッション時に危ないと警告しているとの情報もありましたが、ETFや投資信託に組み込まれている銘柄は特に投げ売りされるのでしょうか。
まとめ:リセッションが来ても大丈夫なように準備はしておきたい
情報収集をする限りではリセッションは来そうだなと思いつつも、本当に来るのかわかりませんし気付いていないだけでもうリセッション入りしている可能性もあります。
とりあえず今できる事は来ても耐えられる(精神的に)ポジションにしておくのが得策と感じました。
この記事を書いてる最中にもどんどん株価は上昇していますが、どちらに転んでも対応できるようにしておきたいですね。
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